洗足学園、その躍進の本当の秘密に倣って(推敲版)
洗足学園中高が、大学受験においてこの十数年で大躍進を遂げているとは、先日もお伝えした通りです。今年も東大の現役合格者数が25人を超え過去最高となったようです。かつては、可もなければ不可もない、しいて言えばアットホームさが売りの学校が、今では神奈川の女子校で進学実績第一位です。一体何が起こったのでしょう?
その理由を、慶応大の学生オーケストラに洗足学園出身の子が何人かいるので、彼女たちに尋ねてみました。彼女たちの回答は意外と言えば意外だし、むしろ当然と言えば当然と言えるものでした。
まず、私はオールイングリッシュの英語授業やディベートなどのリベラルアーツ教育を想定していたのですが、そういう先端的な教育は彼女たちが卒業してからようやく始まったそうなので、過去十数年の躍進とは関係ありません。また、一般的な進学校で見られるような難関大対策の授業もないそうです。
では、何をしているのか?学習単元ごとに確認テストがあって、それがクリアできるまで何回でも繰り返す。もし、練習が足りないのではなく、理解が足りなくてクリアできないのなら、分かるまで先生がマンツーマンで教えてくれる。そうやって、中1の時から知識が抜けたり欠けたりすることがないように丁寧に高3まで積み上げて進んでいくと、猛烈な対策や苦労をしなくても、最後には難関大に続々と受かってしまう。ただそれだけだそうです。つまり、やらないまま先へ進まない、分らないまま先へ進まない、その徹底です。
もう一つ。音楽経験の有無にかかわらず、入学した時に楽器を一つ選択し、高3までの6年間でその楽器をマスターして最後にソロ演奏を披露するという課題があるそうです。ご存知のように洗足学園大学は音大ですが、中高は音学学校ではありません。ですから、生徒は楽器をやるつもりで入学したわけではないし、普通に考えたら楽器の必修化は受験勉強の足を引っ張りそうです。それでも楽器の習得が課されるのです。
それでも前出のOGたちは、楽器に取り組むことで地道な練習の大切さと、自分と向き合うことを学んだのは、受験勉強にも役立ったと思うし、一流の奏者(芸大やN響からの非常勤講師)の考えに触れることができたのは貴重な経験だったと言っています。おそらくは、それこそが全生徒に楽器の習得を義務付けている教育上の目的なのでしょう。
そして、以上のような教育方針は全て、前任の校長先生が導入したとのことなのだそうです。どのOGも口を揃えて、今の洗足学園があるのは前の校長先生のお陰だと言います。思うに、たぶんその方は、大学進学実績を伸ばすためだけに上述のような施策を導入したのではないでしょう。というのも、洗足学園本体はマンモス音大で、そちらで十分に経営が潤っており、たった一学年200人の中高を進学校として名声を高めるインセンティヴが見当たらないからです。
そうではなく、洗足学園に入った生徒一人一人に卒業までの6年間で、たとえ大それたことは叶わなくても、地に足のついた学力と人間性を身につけさせてあげたい、そんな願いが込められていたのではないでしょうか。ところが蓋を開けてみたら、当たり前のことを当たり前にするという、その無欲の学習方針が、実は最も合理的で有効な大学受験対策であったというわけです。
何かと似ていますね。そうです、「当たり前のことを当たり前に」とは25年間変わることのないアカデミアの方針です。アカデミアもまた、淡々と当たり前を積み重ねることで結果的に実績を出してきました。だからと言って、あの洗足学園と同じ方針を取っているアカデミアは凄いんだ、などと喧伝する気は毛頭ありません。ただ、猛烈な進学校間の競争の中にあって、他とは一線を画す人間的な教育方針で洗足学園が他を凌駕する結果を出していることに、頼もしさを感じているだけです。現校長によって、他の進学校と大差のない教育の非人間化とマウント化へ舵を切らないことを願うばかりです。
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