「a」と「the」の違い
「私は昨日、公園に行きました。」
この日本文を英語に直すときに、「公園」の部分で英語学習者は戸惑いを覚えます。「park」は可算名詞ですから、単数形で使うときには冠詞が必ず必要です。ゆえに(×) I went to park yesterday. となります。
そこで、英語学習者は「a」を使うのか「the」を使うのか、頭を悩ませるのです。しかしながら、実際には次にあげる全ての文がこの日本文に対する英訳として使用可能です。
(a) I went to the park yesterday.
(b) I went to a park yesterday.
(c) I went to the parks yesterday.
(d) I went to parks yesterday.
(a)の場合
私が行ったのは一つの公園であり、その公園を文の聞き手も既に知っていることを「the park」は示唆しています。よって言語学的に正確な日本語訳は「あなたも知っている例の公園に私は昨日行きました」となります。
(b)の場合
私が行ったのは(a)と同様に一つの公園ですが、聞き手はその公園については何も知らないことを「a park」は示唆しています。そこで、正確に訳すと「私は昨日、あなたが行ったことのないある公園へいきました」となります。
(c)の場合
私が行ったのは複数の公園であり、それらすべてについて聞き手も知っていることを「the parks」は示しています。正確な訳は「私は昨日、いくつかの公園へ行ったが、あなたもすでにそれら全てに行ったことがある」です。
(d)の場合
私は複数の公園へ行ったが、聞き手はそのどれについても全く知らないことを無冠詞の「parks」が示しています。正確な訳は「私は昨日、あなたが行ったことのない公園のいくつかへ行きました」となります。
以上のように、「a」と「the」の使い分けという英語学習における最も初歩的な段階に問題を限定しても、英文法は一筋縄ではいかないことがわかります。それでは、「a」と「the」の使い分けに関して、一般的な教科書や文法書はどのように説明しているでしょうか。
「a」:不定冠詞であり数えられる名詞(可算名詞)の単数形の前に
つける。母音の前に置かれる場合にはanになる。
「the」:定冠詞であり、名詞の単複、可算・不可算を問わずに使える。
用法は以下の通り。
1.前の文に登場した名詞を、後の文で用いる場合につける。
「その」と訳すが、日本語にしないことも多い。
(例)I have a bike. The bike is nice.
2.楽器名の前につける。
(例)I play the piano.
3.天体の前につける。
(例)the earth「地球」 the moon「月」 the sun「太陽」
4.時間帯の前につける。
(例)in the morning / in the afternoon / in the evening
5.川の名前の前につける。
(例)the Thames
実際にはこれだけではありません。辞書や文法書を見ると、さらに用例が続きますが、果たしてこのような用例の列挙が説明として機能するのかどうかは疑問です。事実、これらの「the」の用例を暗記しても冒頭に提示したような初歩的な問題ですら解決できないのですから。
そこで、冒頭の問題を解決した上に、すべての用例を説明できる「a」と「the」の使い分け方のコツをご紹介しましょう。
「a」 とは、文の聞き手にとって未知な情報を示すときに用いる。
「the」とは、文の聞き手にとって既知である情報を示すときに用いる。
そう考えると、「the」の用例1に見るように、最初の「a bike」は聞き手にとって初めは未知でも、二回目には前の文に登場して既知になっているので「the bike」と変わります。
太陽、地球、月は誰でも見たことがあるので既知、その日の午前・午後・夜も皆が経験しているので既知となります。
楽器の名前に付くのはなぜかということについては、昔はオルガンや弦楽器は貴重品で、特定の場所や人間にのみ所有されていたので、当時の人にとってはオルガンといえば、「ああ、あの教会のオルガンね」というように共通了解事項であった名残りだと言われています。
また、大昔は英語圏には川に固有名詞として名前をつけるという習慣が無かったので、近所の川を名指すのに単に「the river/例のあの川」と表現していた用法が、現代の固有名詞の河川名にも影響を与えています。
これと似たような、「the +普通名詞」が固有名詞に転化する用法は今も存在します。例えば、book」は「本」ですが、誰でも知っている「the Book」は「聖書」です。また、「president」は社長でも、誰もが知っている「the President」は「アメリカ合衆国大統領」なのです。
「a」と「the」は、話題になっている情報の「未知/既知」を示すマーカーである。
このシンプルな原理さえ理解していれば、英語で話すときや英文メールを書くときにいちいち「a」なのか「the」なのか頭を悩ませる必要もありませんし、膨大な用例を暗記する必要もないのです。自分が口にする名詞に関して、既に相手が知っているかいないかだけ気をつけさえすればいいのです。
0コメント